大抵の場合、本人の「膀胱炎の自覚」はかなり精度の高い診断指標になると思っているので、過去に尿路系の評価(エコーや尿細胞診、尿沈査などによる腎炎などや泌尿器の腫瘍・奇形の除外)と感染症学的検索(グラム染色と培養検査による、膀胱炎を起こすものとして矛盾しない起炎菌の確認と、妥当な症状や背景)があれば信頼して抗生剤を出すようにしています。
年に数回起こる「いつものこと」に対して、毎回精密検査を行い長々と話を聴き丁寧な身体診察をするのはナンセンスだし、お互いの時間の浪費でしかないと思うので。
しかし、この「本人の自覚」はどれくらい信じていい のかや、繰り返していく中で耐性菌が悪さをする率が上がってくると思うけどいつも同じ挟域スペクトラムの抗生剤でいいのかとかが結構曖昧なままだなあと今日の外来で自覚しました。
ですので、毎度おなじみDynamedで検索してみました。
最初は「膀胱炎」の直訳である「Cystitis」で検索しましたが、そこにはリンクしかなく、「Urinary tract infection in adults(成人の尿路感染症)」というより広い概念のページでお勉強しました。
どんな調べ物でも、初期診断に当たることが多いプライマリケア医としては『リスクファクター』、つまり「どんな人がこの病気に掛かりやすいのか」の項目がいつも気になります。
若い女性における危険因子は「以前の膀胱炎の既往」と「最近または頻回の性交渉」の2つが挙げられていました。
既往と性的活動性の2点。
当たり前といえば当たり前ですね。
さらに、性交渉に関しては、コンドームや殺精子剤を使ってもリスクは減らないようです。
むしろ殺精子剤付きのコンドームは腐性ブドウ球菌という雑菌によるUTIのリスクを上げるという研究結果もあるようです。
コンドームは一般の性感染症は予防できても、陰部の雑菌が尿道に入り込む尿路感染症の予防には別の観点が必要なんですね。
これも当たり前といえば当たり前ですが、言われてみるまではあまり気にしたことなかったです。
排尿後の残尿量が30mlを越える場合もリスクとなるようです。
これは高齢者ではよく見られる現象なので、病棟の入院患者では特に注意してみようと思いました。
投げている胃を治療する方法
また、「複雑性尿路感染症(合併症があり通常と異なる起炎菌や合併症が起きやすい群)」のリスクとしては、妊娠、糖尿病、尿道カテーテル留置、尿路結石症、神経因性膀胱、多嚢胞性腎疾患、免疫抑制、最近の尿路の器械的操作(泌尿器科での膀胱鏡挿入とか?)だそうです。
これは総合内科医にとって、というかまともな初期研修を受けている医者からすればすでに常識レベルですね。
そして、最も今回のニーズに合致する研究を発見!
「risk factors for recurrent UTI in postmenopausal women」
つまり、閉経後女性における繰り返す尿路感染症の危険因子。
まさに興味のど真ん中です!
「尿失禁の有無」
オッズ比5.79→尿失禁がある人はない人の約6倍かかりやすいということ(41%対9%)
「膀胱瘤」
これは19%対0%という圧倒的な差。
「排尿後の残尿」
これも28%対2%
「閉経前の尿路感染症の既往」
これは30%対11%
コホートスタディで149人の再発性尿路感染症患者と、年齢をマッチさせた53人のコントロール群を比較させた、わりとちゃんとしたスタディでこれだけの差があるなら、意識したほうが良さそうですね。
病歴で尿失禁と若い頃の尿路感染症、排尿前後のエコーで膀胱瘤と残尿をチェックすれば十分。
これなら今までもやっていました。
次に『治療』の項目もチェック。
妊娠していない、単純性(上記の「複雑性」の条件がない)女性の場合
・ST合剤を3日間。
・大腸菌のST合剤体制が15%を超える地域ではフルオロキノロン(シプロフロキサシンが一般的)を3日間
妊婦では、ニトロフランとイン、アモキシシリン、セファロスポリンのいずれかで「7日間」です。
投与期間と妊婦に使っていいかどうか(STとキノロンは禁忌です!)の2点に注意。
日本なら殆どの場合、第一か第三世代セフェムが使われているんじゃないでしょうか。
男性の場合は、キノロンで2週間
男性は尿道が長い(つまり陰部の菌が侵入するのに長い道のりがあるため感染しにくい)ので、尿路感染を起こすこと自体が異常事態で、何らかの背景がある(=つまり複雑性尿路感染症である)ことが多く、また前立腺に感染した場合は抗生剤ノ移行性が問題になるので、キノロンを2週間というのが重要です)
神経因性膀胱がある患者でも14日間のほうが、3日間で終わらせるよりも再発率(月単位で繰り返すことではなく、治療失敗してすぐに再燃する率)が低いようです。
他のトリビア的ネタとしては・・・
症状の強さに関係なく、抗生剤は経口投与でも静脈内投与と同等の症状改善効果があるそうです。
どの年齢層では、チョコレートを食べるのが好き
高齢女性や糖尿病女性の無症候性細菌尿は、ルーチンで治療しないほうがいい
つまり、症状がない人の細菌尿は治療対象にならない(のでルーチンに尿検査しないほうが良い)ということですね。
「水分をたくさんとっておしっこをたくさん出して早く直しましょう」というのはエビデンスレベルでは答えが出ていないようです。
抗生剤投与に関連する下痢発症率は、プロバイオティクス(乳酸菌製剤などを飲ませる)ことで減らせるというLevel 1のエビデンスがあるそうです!
膀胱留置カテーテルのある患者の管の「閉塞予防」に『クランベリージュースをたくさん飲ませる』というのがあるんですが、尿路感染症を今起こしている患者に対する「感染症治療」としてのエビデンスはまだ不十分なようです。
以下の5つの管理戦略があり、いずれも症状コントロール(症状の持続期間や症状の程度、1ヶ月以内の再受診率や追加尿培養検査実施率、再受診までの期間(≒再発までの期間。平均575日))に有用というLevel 1のエビデンスがあります!
1.すぐに経験的に(上記の)抗生剤を開始する
2.48時間ほど遅らせて経験的に抗生剤を開始する(本当に尿路感染症が成立しているのか1-2日待ってからでも治療は遅くないということか)
3.症状スコア(尿混濁、尿臭、夜間尿、排尿障害の4項目)のうち2項目以上があるときに限って抗生剤を投与する
4.試験紙法による簡易尿検査の結果をみて(亜硝酸反応)and/or(白血球+赤血球)のいずれかでも陽性の時に抗生剤を投与する
5.中間尿の尿培養の結果が出るまで対症療法(痛み止めや漢方?)を行いつつ、培養結果を見てから抗生剤を投与する。
2の戦略だと最も抗生剤処方率が低く(77%)、1だと最も多い(97%)。
また、2の戦略だと長期間の再受診期間と関連があるらしいので、抗生剤をできるだけ使わないほうが長期的には再発率が低くなるかもしれないという深読みもできそうです(耐性菌がつかないせい?)
また、治療開始を遅らせる2の戦略でも症状コントロールに関する上記指標に有意差がないんだから、一部は放っておいてもよくなるから、対症療法をしながら様子を見てみて(±尿培養提出しておく)、自然軽快したら抗生剤は投与しないという方針もありそうですね。
特に再発頻度が高い人や、耐性菌が着いたら苦労しそうな尿路奇形や尿路腫瘍、免疫抑制状態のある人、抗生剤アレルギーで薬を使いにくい人ではありですね!!
治療選択肢の引き出しがまた少し増えました� ��
1-3の、検査をしない戦略は、費用対効果の面で良いという結果も(当然ですが)出ているようです。
vertibraの複合骨折の随伴症状は何ですか
耐性菌抑制の面からは1や3は感染症屋から批判を受けそうですが、2はいろんな面から検討してみてもかなり良さそうで、かなり強気で採用できそうな戦略だなあと思いました。
「王道は4か5で、1ばかりを採用している最近の自分はだめだな。できれば2をやってみたい気持ちもある。でもいずれにしても5以外は感染症屋に怒られるな・・・。でも1でもみんな症状取れてるからいいんじゃないの?」という経験的直感を裏付ける結果でした!
これはすごいですね。
よくこんな研究したもんだ。
もうここまでで満足したので、他の治療の項目は読み飛ばしました。
最後に『予防』の項目をさらっと。
クランベリージュースは女性の尿路感染症の発生数を減らす、Level 2のエビデンスがある。
尿道カテーテルの閉塞予防だけでなく、発症予防にもなるのは知りませんでした。
しかし、クランベリージュースは結構マズイらしく、胃ろうがある寝たきり患者以外でおすすめできるかどうかは微妙なところです。
そして、高齢者におけるクランベリージュースの予防効果は、抗生剤の予防効果(下記参照)に比べると劣るようです。
また、妊婦でも予防効果はイマイチのようです。
そして、ワーファリンとの相互作用にも注意が必要とのことでした。
抗生剤の予防投与も、Level 1とさらに協力のあエビデンスがあり、シプロフロキサシンの毎日内服か性交後の内服がいいようです。
その他の予防法としては
・性交後に排尿をするのは、わずかだが再発率を減らす(Level 2)
・ホルモン補充療法は、閉経後女性においては再発率を「減らさない」(Level 1)
・ ビタミンCによる尿の酸性化は妊娠中の細菌尿を減らしうる(Level 3なのであまり確固たる証拠はないし、細菌尿を減らすという代替指標での評価なのでいまいち信頼できない)
・ラクツロース(便秘や肝性脳症につかう液体の下剤)は発症率を減らすかもしれない(Level 2)
けっこう飲みにくいし、通常量を6ヶ月は続けないと、それより少ない量や期間では有意差がでないようなので、これは使えないですね。
というわけで、今後同じシチュエーション(単純性だが再発性の膀胱炎)においては以下のような対応をしようと思います。
・抗生剤処方に対する希望の程度を把握する(出してもらわないと納得できないのか、抗生剤処方にこだわらないのか、話せばわかる人なのか)
・可能であれば対症療法としてアセトアミノフェンや猪苓湯を出しつつ、患者の時間的経済的余裕と相談しながら尿検査±尿培養検査を行うかどうかのオプションを決め、2日後再診時に症状があれば第一世代セフェムを出す(ST合剤はキケンという先入観が日本の医療現場では強いためちょっと出しづらい)
・最初から抗生剤がほしいというパターンの場合は、わざわざ検査結果を待たずにいつもの抗生剤(でもむやみにキノロン出されていれば第一世代セフェムへこっそり変更)を処方してしまう(そのほうが患者の病院滞在時間も、医者の患者一人当たりにかける時間も短くできるので効率よい)
・ただし、この場合も一回は治療開始前の尿培養をとっておきたい(ここはエビデンスではなく、元感染症好きとして起炎菌� �普通なのかどうか把握したいという関心と、もし治らなかったときに適切な抗生剤に速やかに切り替えられるようにというリスクヘッジとしての観点から来るスタンスの問題です)
・難治性でなくいつも同じ対応でよくなっている人には、起炎菌の耐性化などという難しいことは考えずに同じ処方(対症療法なら対症療法だけ、毎回同じ抗生剤なら毎回同じ(できればより境域のに変更した)抗生剤を出しても後ろめたく思わなくて良い。
→これ(繰り返すことでの耐性化)は今回の検索ではエビデンスなどの記載はなかったが、耐性化するとか難治化するという明確なエビデンスがない以上は、状況に応じてこういう対応でも「悪くはない」とわかったのでよしとする。
・あまり繰り返す場合、性的活動性があれば抗生剤の予防投与(出来れば毎日ではなく性交後投与)というオプションの提示や、性交後排尿の教育を行うようにする。
・飲水励行やクランベリージュースは、上記の対応をしても時間に余裕があったり、ちょっとしたトリビアネタが好きな人に小話として追加する程度とする。
こんな感じでしょうか。
上記の内容は、以前に感染症の本で読んだ知識を越えるものはあまりありませんでしたが、臨床の現場でギモンに思って、自分で能動� ��に調べた今回のほうがアタマにより強烈に焼き付いた気がします。
面白かった・・・.。゚+.(・∀・)゚+.゚
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